夏場の体育館は日射の影響を受けやすく、とても高温になるので熱中症の危険性も高まります。
式典や行事、集会場、スポーツ活動、災害時の避難所として多くの人が集まる体育館では、十分な温度管理や熱中症対策などを効果的に行う必要があります。
しかし、容積の大きい体育館では一度こもった熱を簡単に下げることはできず、換気をするだけで適切な温度調整を行うことは至難の技です。
この記事では、一筋縄ではいかない体育館の温度管理について、エアコンや大型シーリングファンなどの体育館に適した空調設備をご紹介します。
それぞれの設備を導入するメリットやデメリット、設置できる空調設備の種類や導入に際しての事業方式、費用の目安や補助金の制度や内容などを具体的に確認することができる内容となっています。
多くの方に体育館という施設で快適にすごしてもらうために、空調設備による効果的で効率のよい環境の構築にお役立てください。
目次
空調設備を導入することは、温度管理という点では最も有効な方法となるでしょう。
導入の前後で環境が大幅に変化し、気温による問題を大きく克服することができます。
では、空調設備を導入することで具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか?
体育館に空調設備を導入するメリットを項目別に確認し、有効な空調管理を目指していきましょう。
空調設備を導入することで温暖化による気温上昇のリスクに対応することができます。
昨今の世界的な気候変動による温暖化は、体感でも分かるほどの気温上昇を招いています。
学校教育でも熱中症の危険を回避するために体育授業などが制限されることも多くなりました。
温暖化に合わせた教育環境を構築する上では、体育館の温度管理を行うことは急務です。
しかし、体育館の構造上、内部で上昇した気温を下げることは簡単にはできません。
容積が大きな場所で温度の変化を起こすためには、強いエネルギーが必要になるからです。
このような難しい環境下では、強力な温度調整ができる空調設備を導入することが温暖化による気温上昇への対策となります。
また、省エネ効果の高い空調設備を導入することでSDGsへの参画や温暖化対策を兼ねることもできます。
空調設備を充実させることにより、体育館は避難所としての活用が可能となります。
仮に夏場に災害に見舞われた場合を想像してみてください。
夏の日射で気温が上昇した体育館に多くの人が集まると、よりたくさんの熱がこもってしまい温度上昇が進みます。
避難所に指定されることが多い体育館では、いざという時に多くの方が健康面や心理面において安心して過ごせる場所でなければいけません。
空調設備で体育館の温度をコントロールすることは、実用的な避難先としての環境を構築するという社会的にも大きなメリットがあります。
社会的にも重要な施設である体育館が災害時などに幅広く活用できるように、最低限の設備と管理を行う必要があります。
施設を運営、維持、管理するものとしても夏場の熱中症対策にはとても気をつかいます。
空調設備の設置で温度管理が可能になり、熱中症のリスクを大きく低下させることができます。
日射により熱がこもった体育館で特に注意すべきなのは、運動中の熱中症です。
暑さの指数と言われる「WBGT」によると、25℃〜28℃で警戒、28℃〜31℃で厳重警戒、31℃以上で危険とされています。(WBGTの数値は気温とは異なります。WBGT参考資料を参照)
体調に大きく影響する気温を空調設備で整えて、快適な環境に変えることは体育館の利用者にとって熱中症の問題を解決する上で大きなメリットとなります。
夏場に体育館を運営するためには、熱中症対策として何らかの空調設備が必須となるでしょう。
WBGT参考資料:環境省 熱中症予防情報サイト「暑さ指数とは?」
体育館に空調を導入するデメリットとしては、コスト面が大きなポイントになります。
体育館のような容積の大きい施設に導入する空調設備はオフィスや教室に取り付けるものと比べ、数十倍の規模にもなります。
そして施設の規模が大きければ、その規模に見合う空調設備や工事規模、その他の業務などにも多くの費用が掛かることは否めません。
コストの問題や多くの公立学校が抱える予算の問題など、デメリットについてもチェックしていきましょう。
体育館のような広い場所に空調を導入する場合のイニシャルコストや電気代などのランニングコストは高額になります。
一般的な教室に比べ10倍〜20倍程の容積がある体育館では、空調設備の価格が数千万とかなり高額です。
その他にも設備が運転できるようにするためには、配管や配線などの材料費や諸経費も掛かることを想定した予算の計上が必要です。
また、導入する空調設備にもよりますが年間約100万円〜150万円の電気代や定期的なメンテナンス費用などもランニングコストとして必要になることは忘れてはいけません。
このように多額の費用を要する体育館への空調導入ですが、導入コストを分散する方法として、リース契約を活用する方法もあります。
また、大型シーリングファンのように空調設備の中でもコスト面で導入のハードルが低く、電気代やメンテナンス費用を大きく削減できる設備にも着目したいところです。
導入を計画する上では、工事計画に合わせて幅広い資金計画を検討することも重要です。
各公立学校の予算総額は教育委員会で定められます。そして教育委員会の予算は地方議会で決定されます。
つまり公立学校の運営には税金が使用されるため、多額の費用を要する空調設備への支出は教育委員会や議会の承認がなければ実行することができないのです。
学校予算については、校長など一部の権限者の独断で決められるものではなく、多くの合意形成が必要となり、空調設備導入のハードルはより高くなってしまいます。
しかし、昨今の急激な気温上昇に伴って文部科学省も空調整備事業への補助金を決定するなどの動きもあり、工事の内容によっては国庫の支援もあります。
今後は公立学校の体育館に空調を導入する動きがより推進されるでしょう。
広い体育館を快適にするための空調設備には、とても大きな出力の温度調整や全体の空気を循環させる工夫が必要です。
普及品のエアコンとは段違いに高性能なものでなければ、容積の大きな空間にこもった熱を冷やすことはできないし、大きな空間で空気が滞留することは空調効率を低下させてしまうのです。
では、体育館でもしっかりと効果を発揮してくれる空調にはどんなものがあるのでしょうか?
ここからは家庭用のエアコンとは違い、大きな空間でも性能を発揮する空調方式を4つご紹介します。
導入を検討している体育館に適した空調設備を選択することがとても重要です。
エアハンドリングユニットは大型の施設や建物に採用されている、極めて空調能力が高い設備です。
特徴としては、屋外の空気を取り込み調整して建物を空調すること。
本体はロッカーやユニット倉庫のような見た目をしており、別室で管理し館内を空調します。
出力が非常に大きく、ビルや商業施設、映画館、病院などの大型施設を一括で空調管理する場合にも採用されています。
また、多くの人が集まる場所では施設内の二酸化炭素濃度等にも注意が必要ですが、外気を取り込むエアハンドリングユニットなら、外の新しい空気が送り込まれるので空質悪化の心配が軽減されます。
ユニット式なので設置する施設や建物に合わせて出力や空気清浄などをオーダーメイドでカスタマイズできるのもポイントです。
エアハンドリングユニット | |
特徴 | ・屋外の空気を取り込み空調 ・大型の建物や施設でも空調が可能 |
空調手順 | ①外気を取り込む ②フィルターで浄化する ③熱交換器で温度を調整 ④加湿器で湿度を調整 ⑤館内に送風 |
メリット | ・施設に合わせたオーダーメイドが可能 ・外気を入れるので二酸化炭素濃度等の心配が軽減 ・メンテナンスが一括で可能 |
デメリット | ・価格が高い ・故障時に全室の空調が停止する(オフィスビルなど) |
設備用パッケージエアコンは室外機と室内機、その他の関連機器がパッケージとなる大容量のエアコンです。
工場などの大きな施設でも対応できる空調設備で空冷式と水冷式があり、特に水冷式は熱交換率が高く排熱も少ないという特徴があります。
パッケージエアコンの室外機はボックス型でビルやデパートの屋上などでもよく見かけます。
室内機は形状はダクト型・ビルトイン型・天吊り型・床置き型などいくつかの種類があり、施設の高さや広さ、特徴などに応じて選択することができ、設置する場所の自由度も高くなります。
設備用パッケージエアコンはメーカーの既製品なので、オーダーメイドであるエアハンドリングユニットに比べると安価です。倉庫や工場などの大型施設に対応するエアコンとして広く使用されています。
設備用パッケージエアコン | |
特徴 | ・室内の空気を循環させる空調 ・形状、方式が複数あり |
空調手順 | ①屋内の空気を熱交換する ②冷媒で熱を屋外に逃がす このサイクルを繰り返し |
メリット | ・空間の特徴に合わせて複数のタイプから選択可能 ・風向きなどの調整ができる ・比較的安価 |
デメリット | ・室内の空気の循環なので空質について注意が必要 ・容積によっては複数台の設置が必要 |
業務用暖房機は一般的な暖房機に比べて広範囲をスピーディーに温めてくれます。
広めの屋内施設などの暖房器具として床に設置されているケースも多く、室内の片隅に背丈前後の大きさの本体を設置します。
熱中症対策などにフォーカスしてきましたが、冬場の体育館は底冷えするので、行事や式典などでは寒さ対策も必要になります。
暖房についても冷却と同じく一般のエアコンなどよりもパワーのある機器の設置が重要です。
業務用暖房機には外気を取り込むFF式、広い空間をカバーする温風式、スポットでじっくりと温める遠赤外線式など複数の方式があります。
体育館の容積をカバーするためには高出力な暖房機が必要なので、温風で気流を回し全体を素早く温めてくれる温風式の暖房機はおすすめです。
風の影響を受けたくないスポーツの会場となる場合は遠赤外線方式の暖房機も活躍します。
体育館の用途に応じて、冬場の空調も確認してみてください。
体育館で使える業務用暖房機 | |
暖房機の種類 | 特徴 |
FF式暖房機 | 外気を取り入れ、バーナーで一気に温める。パワフルで燃焼後の空気は屋外へ排出するので空気は常にキレイ。 |
温風式暖房機 | 体育館や工場など広い施設向け。温風を送り出すので速暖性が高い。 |
遠赤外線式暖房機 | 速暖性は低いが、スポット暖房に適している。気流に影響しないので、空気の流れを気にする心配がない。 |
大型シーリングファンは体育館内の空気を攪拌させることで効率的な空調環境を整備します。
体育館の天井に設置する大型シーリングファンは大きなファンを回転させ、体育館全体に空気の流れをつくることで、利用者の体感温度を下げ熱中症へのリスクを軽減してくれる設備です。
エアコンや暖房機のように空気を直接冷やしたり暖めたりする設備ではありません。
大型シーリングファンは室内に大きな気流をつくり空気を循環させることで利用者の体感温度を下げてくれる仕組みなので、急激な温度変化は起こりにくく利用者の体にもやさしい空調設備です。
その他にも大型シーリングファンを体育館に設置することで、気流により結露対策や防サビ・防カビ効果、換気効果なども期待できます。
大型シーリングファンの省エネ効果は高く、電気料金やメンテナンス費用も他の空調設備と比較するとかなり安価な設備です。
エアコンや暖房機と併用することで効率の良い空調効果を得られることも大型シーリングファンを利用するメリットです。
大型シーリングファン | |
特徴 | ・室内に気流をつくり攪拌させる空調 ・自然な空調環境 |
空調手順 | ①ファンが回転することで気流が発生 ②気流により空気が循環 |
メリット | ・室内全体の空気環境を均一にできる ・熱中症対策以外に換気や結露、防サビ、防カビの効果あり ・利用者が急激な温度変化を起こしにくい ・他の空調設備の補助効果あり ・比較的安価 |
デメリット | ・直接空気を冷やしたり暖めたりする効果はない ・天井に設置するので設置は大がかりになる場合がある |
導入する空調設備が決まったら、高額な設備の導入に対する事業計画を策定することになります。
資金繰りや施工、維持管理などにおいて選択する事業方式は、施工後の運営にも大きく関わる大切な計画のひとつです。
公立の学校などで大規模な設備を導入する際の事業方式は大きく分けて直営方式・PFI方式・リース方式の3つがあります。
ここでは、それぞれの事業方式の特徴を紹介していますので、ポイントを抑えて事業計画策定の参考にしてください。
直営方式は発注側の意向が反映されやすいという特徴があり、直営方式の中にもいくつかの区分けが存在します。
設計、工事監理、施工業務を一括で発注するDB方式、DB方式に維持管理を加えるDBO方式、さらにそれぞれの業務を設計事務所、工事会社、管理会社等に分離して発注する従来方式も直営方式のひとつです。
直営方式では、資金繰りや設備の所有は発注者である体育館の運営団体が行い、設計から施工(その後の維持管理)をDB(DBO)業者が担当することになります。
発注者の意思が反映されやすく、民間のノウハウも活用できて責任の所在も明確になりやすい点は直営方式のメリットです。
まとまった資金の調達が可能な場合には一般的な事業方式です。
PFI方式は民間が主体となる事業方式です。
所有者は発注者となりますが、資金の調達、設計、工事監理、施工業務などを民間が行い、場合によって管理や運営までも民間に委ねられます。
資金調達の段階から民間企業の特色やノウハウが発揮されやすくなり、公共団体が主体の業務運営と比較して効率性や合理性が促進されるなど、事業運営がより成功する場合があります。
体育館を運営する団体の特性や事業内容によっては、PFI方式の活用が有効な事業方式となります。
リース方式は支払う費用を平準化して資金調達という大きな問題を解決してくれる事業方式です。
導入する設備を民間企業が所有し、リース契約を通し設計、工事監理、施工業務、維持管理を行います。
まとまった資金を一括で支払う必要がなく、完工後は平準化したリース料を定額で支払う形式となり、設備導入後の事業計画や工事計画が立てやすくなるメリットがあります。
リース方式は限られた資金の中で必要な設備導入を計画的に行えることもあり、義務教育機関での利用も多い事業方式です。
ただし、リース方式のデメリットとして導入した設備の所有権はリース会社にあること、リース料に利息が含まれること、補助金制度によっては対象から除外されることなどのポイントを抑えておきましょう。
空調設備を導入する上で掛かる費用の目安について紹介します。
とは言え、導入する空調設備の種類、施設や建物の形状、必要な能力などにより価格は大きく変わるため、工事事例はよく紹介されていますが金額はネットでもなかなか表記されていません。
エアハンドリングユニット、設備用パッケージエアコン、大型シーリングファンの一般的な価格を記載していますので参考程度にご確認ください。
[エアハンドリングユニット]
本体、その他設備、部材、各種工事費用などを含めて5000万円前後
空気清浄、湿度管理を兼ねる。
[設備用パッケージエアコン]
本体、部材各種工事費用などを含めて500万円程度。
複数台必要になる場合もある。
[大型シーリングファン]
本体、工事費用などを含めて150万円~350万円程度
体育館内の空気循環を起こし体感温度を低下させる。
※電気料金などのランニングコストはエアコンなどに比べ大幅に削減可能。エアコンとの併用も費用対効果は大きい。
繰り返しになりますが、空調設備の種類、施設や建物の形状、必要な能力など価格を決める要素は様々です。
工事の計画を立てる際に体育館の構造に合わせた概算見積を取得すると、より計画が具体化するでしょう。
体育館に空調設備を導入する上で、補助金や助成金の制度はチェックしておきたい項目です。
結論から言うと、体育館に空調設備を導入するにあたって補助金や助成金を活用することが可能です。
学校の体育館であれば教育施設や避難施設としての環境改善や安全性の確保のために国庫が適用され、民間等の体育館であれば省エネや環境へ配慮を目的とした工事として補助金が適用される場合があります。
空調設備の導入には大きな費用がかかるので、国庫や補助金の適用はしっかりと確認し、事業計画に組み込みたいポイントです。
学校の体育館への空調設備導入には、次の国庫補助事業が適用されます。
国庫補助事業 | 対象 | 負担金 |
公立学校施設整備費負担金 | 校舎・屋内運動場(体育館)等を新築又は増築する場合に一部を国が負担 | 原則:1/2 |
学校施設環境改善交付金 | 安全性を確保するために地方公共団体が学校施設の整備をするに当たり、実施に要する経費の一部を国が交付金として地方公共団体へ交付 | 400万円~2億円 |
詳細はこちら→文部科学省HP「国庫補助事業について」
その他、民間に対しても次のような補助金が適用される場合があります。
補助金事業 | 対象 | 補助金 |
先進的省エネルギー投資促進支援事業 | エアコンや業務用冷蔵庫、高効率生産設備などが対象 | 1億円 |
民間建築物等における省CO2改修支援事業 | 導入前の設備に対し 30%以上削減できる設備を導入し、省エネの実現を目的とした体制の構築を行う事業が対象 | 5000万円 |
このように国庫や補助金が国や省庁から整備される背景には、環境や社会情勢、時代の変化も大きく作用しているでしょう。
高額な空調設備を国庫や補助金のサポートで導入できるのは事業者にとっても、利用する人にとっても有益なことです。
この記事では体育館への空調設備導入について、次の5つのポイントを確認してきました。
・空調を導入するメリット・デメリット
・設置できる空調の種類
・空調設備の設置における事業方式
・導入費用の目安
・補助金の制度や内容など
地球規模の温暖化が引き起こす気温上昇と熱中症の対策として、空調設備を導入することは、もはや必須の設備投資となりつつあります。
屋内でのスポーツ、式典や行事の開催、災害時の避難場所など多くの方が多様な目的のもと集う場所であるからこそ、体育館の環境整備が持つ社会的な意義は大きいものです。
多額の費用が必要な空調設備の導入は簡単なものではありませんが、国庫や補助金を活用し、施設や状況に合わせた事業方式を採用すれば、効率よく経済的に空調環境の整備が可能になるでしょう。
比較的安価でその他の設備とも親和性の高い大型シーリングファンのような設備を導入することは長期的な費用対効果も高い選択です。
“体育館に空調設備を導入する”という大きな決断がみんなの未来をつくる要素になることは間違いありません。
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